日米の金利差によって円安が起こるってどういうこと?

経済

はじめに

この頃「円安」という言葉をよく聞く。
実際2020年前後には1ドル=110円前後を推移していたのが、2022年10月には一時1ドル=150円を付けるほど円安に動いたのである。

そしてこれに関するニュースの中で、「日米の金利差が円安の原因である」「なぜ日銀はこの円安の状況下にあって低金利を継続するのか」というような論調をよく耳にした。
ただ実際のところ、「日米の金利差とは何なのか」や「日銀の政策がどのように日米の金利差に関係しているのか」など、あまりよく分かっていない人も多いのではないだろうか。

そこでこの記事では、こう言った疑問に対して解説をしていく。

為替レートとは通貨の価値のバランス

まずそもそも為替レートとは何なのだろうか。
それは一言で言ってしまえば、「通貨の価値のバランス」である。

つまり例えば円ドルレートというのは、「円」と「ドル」の価値のバランスを反映するものなのである。
そのため円の価値がドルと比べて相対的に上がれば、「円高」に振れるわけである。

では「通貨の価値のバランス」とは何なのだろうか。
この問題は「通貨」で考えると分かりにくくなるが、これを実際の「モノ」に例えると分かりやすくなる。

例えばバナナとリンゴで考えてみよう。
通貨が存在していなかった太古の話だと仮定し、バナナとリンゴは物々交換によって取引されるとする。

今日の時点ではバナナ3個とリンゴ1個が等価交換されている。
しかしある時、リンゴが一大ブームを巻き起こし大人気となる。そうするとバナナを欲しがる人の数は今までと変わらないのに対して、リンゴを欲しがる人が急増する。
すると今までバナナ3個で手に入っていたリンゴだったが、リンゴを欲しがる人が多すぎてバナナ6個を出さないと誰も交換してくれなくなってしまった。
これはつまりリンゴの価値がバナナと比較して2倍になったということである。

これはリンゴに対する人々の需要が変化することによって、バナナとリンゴの相対的な価値のバランスが変化する例である。

この例はそのまま通貨のバランスにも適用できる。
例えばリンゴがドルで、バナナが円だとする。
今日の時点では、ドル1個(=1ドル)と円100個(=100円)が同じ価値のものとして交換されている。
しかしある時ドルが大人気となる。そうすると円を欲しがる人の数は今までと変わらないのに対して、ドルを欲しがる人が急増する。
すると今まで円100個で手に入っていたドル1個だったが、ドルを欲しがる人が多すぎて円を200個を出さないと誰も交換してくれなくなった。
これはドルの価値が円と比較して上昇することで、1ドル=100円から1ドル=200円に変動する例であり、これが円安・ドル高の現象である。

しかしリンゴが大人気になって欲しがる人が増えるのはなんとなく想像ができるが、ドルが大人気になって欲しがる人が増えるというのはどんな状況なのだろうか。
これは基本的には「ドルでしか買えないモノやサービスを買いたい人が増えた時」である。

私たちは日本に暮らしていて、輸入品を含めたすべての買い物を円で行うためイメージがしづらいが、当然輸入品はもともとは外貨で購入されている。
例えばアメリカの小麦を日本の業者が購入して輸入する際には、輸入する日本の業者側は(間接的に)円をドルに変換してドルで小麦農家に支払いをする。
これは当然であろう。アメリカの小麦農家はドルで給与を支払い、ドルで生活しなければならないので円を貰っても困ってしまう。
つまりアメリカの小麦を買うには、円をドルに換える必要性があるのである。

そして当然その逆もしかりである。
日本の車を購入するためには、アメリカの業者はドルを円に交換して、円で支払いを行う。
つまり日本の車を購入するためには、ドルを円に換える必要性があるのである。

この「円で売っているモノが買いたいからドルを円に換えたい人」と「ドルで売っているモノが買いたいから円をドルに換えたい人」のバランスが通貨のバランスであり、これが為替レートを決定するのである。

金利って何?

前章までは、為替レートがどのように決定されるのかについて解説した。
ここから、この記事の本題である金利と為替レートの関係性について解説したい。
「日本は低金利なのに対してアメリカは高金利なので、円安になっている」や「この金利差には日本銀行の政策が関係している」とはどういうことなのだろうか。

しかし「金利」と言われてもざっくりしすぎていてあんまりしっくりこないのではないか。
そこでまずは、ここで言う「金利」とは何なのかについて確認したい。
私たちがイメージする金利と言えば、住宅ローンの金利や消費者金融の金利などであろう。
そしてこのような金利も、ここで言っている「金利」の一部である。

金融の世界においては、様々な「金利」が存在しており、これらは互いに影響を与え合っている。
その中でも非常に影響力が大きいのは、銀行が日本銀行に保有している日銀当座預金に適用される金利である。

日本国内全ての銀行は、「銀行の銀行」である日本銀行に口座を持っている。
私たちが銀行に口座を持っているのと同じように、銀行も日本銀行に口座を持っているのである。

そしてよく聞く「マイナス金利」とは、この日銀当座預金の一部残高に対して適用されるものなのである。
「マイナス金利」とはざっくりと言ってしまえば、銀行が日銀当座預金に預金を多く預けすぎていると、その残高に対してマイナスの金利が適用され、時間が経てば経つほど残高が減っていくという仕組みである。
※マイナス金利と日銀当座預金についての詳細な解説はこちらをご覧ください

そしてこの日銀当座預金の残高に適用される金利は、他の金利に非常に大きな影響を及ぼす。
なぜならば、自らも個人や一般企業に対して金利を付けて貸し出しを行ったり、金利の付く商品を購入したりする銀行の立場にとってみれば、この日銀当座預金に適用される金利が他の金利との比較対象になるからだ。

例えば仮に日銀当座預金に適用される金利が5%だったとしよう(こんなことはまずあり得ないが、これは仮定である)。
日銀当座預金から得られる利子はほぼ無リスクで得ることができるものだ。
このような状況で、きちんと返済されるかどうか分からないリスクのある個人や一般企業に対して、銀行が金利5%以下で貸し出しを行うだろうか。当然そんなことはあり得ない。
そんなことをするくらいなら全額日銀当座預金に預けていればよいからだ。
そのため、このケースでは自ずと銀行が個人や一般企業に対して貸し出しをする際の金利も高い水準となるだろう。

一方で日銀当座預金に適用される金利が – 0.1%だったとしよう(こちらの方が現実的な例である)。
このような状況では、先ほどの例とは異なり、銀行は低い金利でも貸し出しを行おうとするだろう。
お金を預けていても減ってしまう一方なのであれば、低い金利でも貸し出しをした方が得だからである。
そのため自ずと銀行が個人や一般企業に対して貸し出しをする際の金利は低下するだろう。
※日銀当座預金に適用される金利は、銀行の貸し出し金利に影響を与える要素の一つに過ぎない。

日銀当座預金に適用される金利が影響を与える金利は、銀行の貸し出し金利だけではない。
大きな影響を受ける例の一つが国債の金利である。

債券(国債もその一種である)とは、以下のような特徴を持っている。
 ・借金の一種であり、会社や政府など幅広い主体が発行できる。
  (会社なら社債、政府なら国債と呼ばれる。)
 ・債券の保有者に対しては、発行者から一定期間ごとに利子が支払われる。
 ・満期が決まっており債券の購入者は満期までこれを保有していると、一定期間ごとに受け取れる利子に加えて当初の購入金額をそのまま受け取れる(額面償還と呼ばれる)。
 ・購入者はこれを満期まで保有している必要は必ずしもなく、市場で他の購入希望者に売ることもできる。

今回国債の金利を考えるに当たって重要なのは最後の「市場で取引可能」という点である。
これについて例を出して考えてみたい。

満期が1年間で、利子の支払いが満期にだけ発生する国債を考える。
この国債は100円で発行され、満期には2円の利子と額面である100円が償還される。
つまり今100円で国債を購入すれば、1年後には102円を受け取れるというわけだ。
この国債の金利は2%ということになる。

しかしあなたが国債を購入した直後、日銀はマイナス金利政策を打ち出した。
先ほど説明したようにマイナス金利政策が採用されると、銀行は日銀当座預金に残高をたくさん持っていると損をしてしまうため、そのお金を貸し出しに回したり、そのお金で他の資産を購入したいと考える。
当然国債も購入の対象になる。そのため、マイナス金利政策が打ち出されると国債の購入希望者が増加し、国債の需要が増加する可能性が高い。

モノの値段と同様に市場で取引される債券も需要と供給のバランスによって決定するため、国債の需要が増加すると、もともと100円で発行された国債に対してより多くのお金を払っても買いたい人が出てくる。
これによって市場ではこの国債が101円で取引されるようになったとする。

こうなると、この国債は100円で買うと満期に102円が得られる債券ではなく、101円で買うと満期に102円が得られる債券になるわけである。これはつまり金利が2%から1%弱にまで低下したということを意味する。
(このようなメカニズムから債券の価格と金利は反対の動きをする。)

元々の趣旨である日銀当座預金の適用金利と国債金利の関係性に戻ると、上記の例のように日銀当座預金の適用金利が下がることで、国債の金利も低下するのである。

日銀はマイナス金利以外にも、金融緩和政策の一環として買いオペをすることがある。
買いオペとは日銀が大量の国債を購入することである。
この買いオペでも国債の需要が増加するため、国債金利は低下をするのだ。
※金融緩和に関する記事は今後アップロード予定です。

金利と為替レートの関係性

ずいぶんと前置きが長くなってしまったが、「為替レート」と「金利」それぞれについて解説をしたところで、いよいよ本題である金利と為替レートの関係性について考えていきたい。

先ほど解説したように、為替レートとは二つの通貨の需要のバランスによって決定される。
つまり円ドルレートは、円が欲しい人の数とドルが欲しい人の数のバランスによって決定するのである(厳密には人の数ではなく、その需要の大きさであるが)。

二国間の金利差がこの為替レートに影響を及ぼすということは、金利差がこの需要のバランスに影響を与えているということである。
これは想像しやすいのではないだろうか。

例えば日本の金利が非常に低く、アメリカの金利が非常に高い場合。
日本では低い金利でお金が借りやすいものの、債券などに投資をしても大きな金利は得られない状態である。
一方のアメリカではお金を借りるには高い金利を支払う必要がある一方、債券などに投資をすると大きな金利が得られるという状態である。

であれば日本で低金利でお金を借りてその借りた円をドルに換算し、ドルでアメリカの債券を買えば、低金利で資金調達して高金利で運用ができるだろう。
これはつまり円をドルに換えたい人が増えるということであり、円安ドル高に振れる圧力となるわけである。

これが「日米の金利差が円安の原因である」という論調の意味するところなのだ。

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