マイナス金利って結局何なの?

経済

はじめに

「マイナス金利」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないか。
ただなんとなく「本来プラスであるはずの金利がマイナスになっているんだ、、、」のような曖昧な理解をしている人も多いのではないだろうかと思う。
そこでこの記事では、マイナス金利とは何なのか分かりやすく解説する。

マイナス金利とは我々の預金にかかる金利ではない

マイナス金利と聞いたときに、私たちが銀行に持っている預金口座に付与される金利がマイナスになっているのではと思っている人も多少なりともいるかもしれない。
しかしこれは完全に間違いである。

マイナス金利とは、銀行が日本銀行に持っている預金口座の一部分にかかる金利がマイナスになることを意味している。
ただ銀行が日本銀行に持つ口座について深く知らない人も多いのではないかと思うので、まずはこれについて解説していきたい。

日本銀行は「銀行の銀行」

日本銀行はしばしば「銀行の銀行」であると言われる。
つまり私たちが銀行に口座を持っているように、銀行も「銀行の銀行」である日本銀行に口座を持っているのである。
ではなぜ銀行は、日本銀行に口座を持つ必要があるのだろうか。

それは私たち個人が銀行に口座を持っている理由と非常に似通っている。
私たちが銀行に口座を持っている理由としては以下のようなものがあるだろう。

①他の口座への送金や、他の口座からの送金の受け取りのため
 (例:クレジットカードの引き落とし、友達との送受金、給与受け取りなど)
②銀行からの融資を受けるため
③納税するため
④金利を得るため

実は銀行もこれらの機能を利用するために日本銀行に口座を持っているのである。
これら4つの機能を、銀行はどのようなケースで利用するのかについて一つ一つ解説していく。

送金や受け取りのため

銀行が日銀の預金口座を利用する一つ目のケースは、他の口座への送金や他の口座からの送金受け取りの時である。
私たち個人が銀行口座を利用するケースに当てはめてみると、クレジットカードの引き落としや給与受け取りなどがそれに該当する。
ただし銀行が日銀に持っている口座を用いて送金や受け取りを行う場合、その送金先や送金元は一般企業や個人であることはなく、主には他の銀行である。

国内の全ての銀行は日本銀行に口座を持っているため、必要に応じてその口座を通じて銀行間で送金のやり取りを行っている。
これは例えばあなたが友達に1万円を送金したいとき、あなたの口座から1万円が差し引かれて友達の口座に1万円がプラスされるのと同じようなものをイメージしてもらえればよい。
これと同じことが日本銀行の口座を通して銀行間でも行われているわけだ。
では銀行間で送金のやり取りをするのは、具体的にどのような場合なのだろうか。

一つ目のケースは、私たちのような利用者が他行宛ての送金を行った場合である。
例えば、S銀行に口座を持っている佐藤さんからU銀行に口座を持っている田中さんへと1万円の送金を行うケースを考える。私たちユーザーから見れば、この送金は同一銀行内での送金とそこまで変わらないように見えるだろう。送金元の口座から1万円が引かれ、送金先の口座に1万円が足されるだけである。その差と言えば、多少手数料がかかるくらいだろう。

しかしこれは銀行サイドから見ると、かなり意味の異なる取引になる。
同一銀行内での送金の場合、銀行サイドでやるべきことは自行の佐藤さん口座から1万円を差し引き、自行の田中さんの口座へそれを付け替えるという行為だけである。
この取引によって銀行側の資産構成が変わることはない。

一方で他行との送金の場合はそうではない。
そもそも私たちが持っている預金とは銀行にとっては負債(≒借金)である。
私たちがイメージする借金とは、「今一定額を受け取る代わりに、後でそれに利子をつけて返さなければいけない」というものであろう。
そして銀行サイドから見た預金とはまさにそれに該当するのである。
「今一定額を受け取る代わりに、利用者がATMなどで現金を要求した時には、それに利子をつけて返さなければいけない」というものだ(現在利子は微々たるものだが)。
そのため銀行にとっては私たちの預金は負債(≒借金)なのである。

先ほど例として挙げた他行宛ての送金が行われると、S銀行は自行の佐藤さん口座から1万円を差し引き、それをU銀行の田中さんの口座に付け替えることになるわけだが、これはつまり元々S銀行で持っていた預金という負債(≒借金)をU銀行に移し替える行為になるわけである。

当然負債を他行に移転するわけだから、それと同額の資産を差し出す必要があるだろう。
その同額の資産の差出が日本銀行に持っている日銀当座預金を通じて行われるのである。
具体的には、S銀行の日銀当座預金口座から1万円が差し引かれ、代わりにU銀行の日銀当座預金口座に1万円が足されることになるのである。

銀行間の送金が行われるケースのもう一つが銀行間でのお金の貸し借りをする場合である。
「銀行同士でお金の貸し借り?」と思った人もいるかもしれない。
銀行なんてたくさんお金を持っていそうなのだから、借りる必要なんてなさそうなものである。

しかし実際には銀行でお金が足りなくなることはよくある。
なぜなら銀行はなるべく現金や預金を持ちたくないからである。現金や預金は持っていても増やすことが難しい。例えば、今日持っている1万円札は1年後になっても当然1万円札のままである。
さらに預金についていえば、この記事の本題でもあるように最近はマイナス金利政策がとられているため預金を持っているとむしろお金が減っていく始末である。

つまり銀行にとって現金や預金はたくさん持っていても、あまり得がないのである。
むしろ金利が付く国債を購入したり、その他債券や株式を購入する方が理にかなっているのだ。
そういうわけで銀行は最低限のお金しか持たないように努めていることが多い。

そんな時に例えば他行宛ての送金やこの後説明する納税のプロセスで多額のお金が必要となると、一時的にお金が足りなくなることがある。そんな時は、余裕のある他の銀行に極めて低い金利でお金を借りるのである。
そしてこの銀行間でのお金の貸し借りは日銀当座預金を通して行われるのである。

ちなみにこの銀行間の取引は、担保なしで貸し出され、かつ翌日には返済されるので「無担保コールオーバーナイト物」と呼ばれる。
「コール市場」とは金融機関同士が短期のお金を融資しあう市場のことを指し、「オーバーナイト」とは一晩立てば返済されるという意味で、この名前が付けられている。

融資を受けるため

銀行が日銀当座預金を保有している理由の二つ目が日銀からの融資を受けるためである。
私たち個人や一般企業も銀行に口座を開設して、その口座を通して融資を受け取るが、銀行も日銀から同様に融資を受けることがある。

先ほど説明したように、銀行は一時的にお金が不足する場合があり、そのような時は銀行同士で資金の貸し借りを行う。しかしその他にもお金の不足を補う方法があり、それが日本銀行から融資を受けるという方法である。

この場合、日本銀行はあらかじめ銀行より差し入れられた担保の範囲内で、翌営業日の返済を前提として銀行に融資を行う(これを補完貸付制度という)。
この融資を受けることも日銀当座預金の機能の一つである。

納税するため

納税に関しては、預金口座を持つ目的として私たち個人にはあまり当てはまらないかもしれない。
特に会社員に関しては源泉徴収が原則のため、自分の口座から税金が引き落とされることはないだろう。

ただそれはつまり企業が代わりに納税をしているということだ。
そして企業は銀行に保持している自社の口座から労働者の税金を代理で納めているので、この目的で口座を利用していると言えるだろう。

では銀行の立場から見た時、企業の口座から適切な納税額を差し引いた後、そのお金をどこに移しているのだろうか。
実はこの送金についても日銀当座預金を通して行われるのである。
銀行は適切な納税額を企業の銀行口座から差し引いた後、これと同額を自行の日銀当座預金口座から政府の日銀口座へと振り込むのである。
つまり銀行は。

金利を得るため

私たちが銀行口座を持っている理由として、最後に挙げるのは金利を得るためである。
今や銀行口座の預金金利は限りなく低くなっているが、それでも金利が付くことには変わりはない。
そのため現金で持っているよりは少しはお得なので、預金口座を利用するというのは筋が通っている。

銀行が持っている日銀当座預金にも金利が適用される。
そしてこの金利が今回の趣旨であるマイナス金利が指すものである。
厳密に言えば、日銀当座預金の残高は私たちの預金口座とは異なり、階層に分類されそれぞれに異なる金利が適用されている。

その階層について理解するには、準備預金という概念を理解する必要がある。
銀行は私たち利用者から受けている預金の総額の一定比率分を日銀当座預金に保持していなければいけないと定められており、これが準備預金と呼ばれている。
先ほども言ったように銀行の日銀当座預金は、銀行間決済などの際に必要になるため、この預金額があまりにも少ないとこの決済に滞りが出てしまう可能性があるため、このようなルールになっているのだ。
ただこのように保持することが義務付けられている預金に対してマイナスの金利を適用し、預けていたらお金が減るようにするのは酷い話だろう。そのためこの準備預金に対してマイナスの金利が適用されることはない。

ただし、この準備預金を超えて預け入れられている分は超過準備と呼ばれており、超過準備の一部に対してマイナスの金利が適用されているのである。

マイナス金利導入の目的

ここまでの解説で、マイナス金利は銀行が保有している日銀当座預金の一部残高に対して適用されるものであることを解説した。
ではなぜそのような制度が導入されていて、その目的は何なのだろうか。

結論を先に述べると、マイナス金利導入の目的は経済がより盛んになるように手助けすることである。
ただ「経済が盛んになるように手助け」と言われても、抽象的過ぎてピンと来ないと思うので、現状どのような課題があり、それがマイナス金利によってどのように解決されることが期待されているのかを解説する。

マイナス金利の目的はデフレ脱却

マイナス金利の導入の目的はズバリ、「デフレの脱却」である。
デフレという言葉はよく聞くが、実際のところどういった現象であり、何が問題なのだろうか。

まずデフレというのは、モノの値段(物価)が継続的に下落していくことを指す。
例えば、仮にマクドナルドのビックマックの値段が10年前は600円、5年前は500円、今年は400円となっていたら物価は下落しており、デフレ傾向にあると言えるのだ。
 ※当然物価はあらゆるモノ・サービスの値段の上下から測定されるので、ビックマックはあくまで一例である。

デフレはなぜ起こるのだろうか。基本的に物価は需要と供給のバランスによって決定される。
供給に比べて需要が大きくなれば価格は上昇し、供給に比べて需要が小さくなれば価格は減少する。
つまりデフレとは供給に比べて需要が小さい状況が継続的に続くことで発生するのである。

ただ私たち消費者からすると物価が下落することは、モノの値段が安くなるので望ましいことのようにも思えるが、なぜこれが問題なのだろうか。
デフレの際の消費者の心理を考えてみよう。モノの値段が下落傾向にあると、今買うよりも将来買った方が安く買えるので、今買うと損すると考えるだろう。そうすると消費者には今お金を使って何かを買うモチベーションが下がる。
ビックマックの価格が下がることを待って、今購入をやめることはないかもしれないが、例えば車や家のような大きな買い物の場合、この心理は想像がつきやすいだろう。

そして消費者が今積極的に買い物することをやめると何が起きるだろうか。需要がさらに落ち込むため、より供給>需要の関係性が大きくなっていき、これがさらなる価格下落の圧力となる。また当然企業の売り上げも下がっていく。
売上が下がっていくと企業は将来に対して明るい展望が持てなくなるため、新たな設備投資や社員への高い給与の支払いをためらうようになるだろう。
ある企業の設備投資は裏を返せば別の企業の売上である。
例えばある製造業の企業が、業績の低下を理由に予定していた工場の建設を先延ばしにしたとする。これはある企業の設備投資の中止に当たる。そしてこれは裏を返せば、工場の建設に携わるはずだった建設会社や部品製造メーカー等、多くの関係者の売り上げの減少を意味している。
これがドミノ倒し的に連鎖していくのである。こうしてあらゆる企業の売上が減少してく。

そしてそれは当然社員の給料の低下やリストラへとつながっていく。
労働者は消費者でもある。そのため当然労働者の給料の低下やリストラは、消費者の購買力の低下に直結する。そして消費者の購買力の低下は、需要の低下及び企業の売上の低下につながるのである。

このような負の連鎖はデフレスパイラルと呼ばれている。

そして日本は長らくこのデフレ不況に苦しめられてきた。
これに対する解決策の一つとして導入されたのが、マイナス金利なのである。
それではマイナス金利は具体的にどのようにデフレに効果があると期待されているのだろうか。

マイナス金利によるデフレ脱却への期待

ここまでマイナス金利は何なのか、そしてマイナス金利導入により解消が期待されるデフレとはどのような現象なのかについて解説してきた。
このセクションでは、マイナス金利が具体的にどのようにデフレ脱却に効果があると期待されているのかについて解説する。

先ほど解説したように、マイナス金利とは銀行が日銀当座預金に持っている超過準備のうちの一部にマイナスの金利を適用する政策のことである。
これによって期待されるのは、「銀行にとって超過準備を持っておくインセンティブを減らす」ことである。銀行にとっては必要以上に日銀当座預金にお金を入れておくと、お金がどんどん減ってしまうのだからこれは容易に想像がつくだろう。

そしてさらには銀行が超過準備を減らす手段として、その資金を投資や企業への融資へと回すことが期待されている。
銀行が投資や企業への融資を増やせば、企業は資金に余裕が生まれるため新たな設備投資を行ったり給与の引き上げを行ったりといった行動に移る可能性がある。そうなれば先ほど説明したようなデフレの悪循環から抜け出せるのではというわけである。

これがマイナス金利の導入の目的なのである。

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